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映画鑑賞記録「全員死刑」(ネタバレあり)

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主演・間宮祥太朗、監督・小林勇貴による「全員死刑」を観てきた。これまで本物の不良を使って映画を撮ってきた小林監督が初めて俳優を使って撮った映画で、間宮祥太朗にとっても初主演映画となる。この映画をわざわざ2時間かけて隣の県まで朝イチで観に行ったのは、自分が間宮祥太朗ファンであることが大きな要因ではあるが、映画評論家の町山智浩氏が第2回町山大賞に選んでいた(第1回は「この世界の片隅に」)ということもあり、主演が誰であれ観ていた作品だと思う。

話のモデルは2004年の福岡県大牟田市での殺人事件。「冷たい熱帯魚」「凶悪」と同じプロデューサー。そして全員死刑という物騒なタイトルやポスタービジュアルから、どんな恐ろしい映画なんだと想像してしまうが、R15指定ということもあり殺人描写や性描写は驚くほどマイルド。同じ日活製作でR15指定、間宮も出演していた「ライチ☆光クラブ」の方がその点では過激だったように思う。

ではこの映画の何が鮮烈なのかと言えば、小林監督による演出に他ならない。複数の映画のオマージュがふんだんに盛り込まれているらしいが、自分の貧困なムービーリテラシーでは解説不能なため、その辺は他の方にお任せする。この映画で一番印象に残るのが忙しなく転換するBGMではないかと思う。クラシックからアゲアゲ曲、メタルコアまで多岐に渡るジャンルの音楽が作品を彩る。しかしあまりにも節操のない選曲のため、決して心地いい物ではなく、寧ろこれが原因でこの作品に嫌悪感を抱く観客もいておかしくない。自分も正直途中から「ちょっと過剰では?」と思いこの作品に対する評価を考えるところまで行ったが、ここまで押せ押せで来られると「逆にこれはこれでアリだな」と最終的には思わされてしまった。BGM以外にもカメラワーク、B級アメリカホラーのようなチープ感、状況説明の字幕など、「敢えて」やってますよ感が満載で、それが鼻につくという人もいると思う。自分も正直(略)

と、このように監督のやりたい放題な演出になっているのだが、肝心の話はと言えば、これが恐ろしく緊張感の無い、間の抜けた殺人記録なのだ。あらすじとしては父、母、長男、次男の4人が財産強奪のため資産家一家を襲うという物なのだが、毎回殺すのは次男のタカノリ(間宮)の役目。全部タカノリに丸投げの親や長男もクズだが、全て言う通りにするタカノリもやはりおかしい。つまり犯人を全くかっこ良く描いていないのだ。これもBGMの効果によるところが大きいと思うが、個人的には殺人シーンの時だけ取ってつけたようにかかる不穏なBGMがわざとらしくてツボだった。

そんな中で3人目、4人目を銃殺した後、それまで業務的に殺しを行なっていたタカノリに異変が起きる。兄に対して銃口を向けるのである。本人に殺す意思は無かったと思うが、あまりにも人を殺し過ぎたため、何かのスイッチが入り、自分を散々こき使ってきた兄への蓄積された思いがこの行動に移させたのだろう。ここは観ててスカッとしたし、個人的に一番好きなシーンだった。と同時に「殺人を犯すとこういうことも起きるんだろうなぁ」と想像できてしまった自分にゾッとした。

役者で言うと、主演の間宮祥太朗は最初正直この作品の登場人物としては顔が良すぎじゃないか?という懸念を抱いていた。そりゃあヤクザにもハンサムな人はいるだろうが、間宮はいくら何でも華があり過ぎる。しかし殺人を重ねる内に、くっきりだった二重がどんどん一重になり最終的にマジでこんな顔↓

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になっていたのはお見事だった。あとたまに垣間見せていたシャブ中の呂律の回らない演技がとても上手かったので、機会があればまたそういう役をやってもらいたい。

間宮に次いで出番が多かったのが長男役の毎熊克哉。一見するとタカノリよりよっぽど強面なのに、実際は口だけで何もしないという小者っぷりがギャップがあって良かった。一番最初の被害者であるユーチューバー・おわりたいちょーを演じた藤原季節も良い感じにムカつく演技をしている。予告で大々的に使われてるだけあって、彼のシーン(カレープール&全部チャラにしちゃえ〜♡)は画ヂカラがあった。六平直政と入絵加奈子による両親は頼りなさ過ぎて寧ろ最高。

町山氏が「地獄のサザエさん」と評するように、やってることは殺人なのに妙にほのぼの感が漂う怪作。実際の事件を題材にしてる云々よりも、映画として賛否が分かれる作品のように思う。自分はといえば、もう既に最初から観直したくてしょうがないので、すっかりこの作品の虜になっている。日本的な陰湿さは無く、アメリカ的なおバカでカラッとした感触なので後味は不思議と悪くない。意外と間口の広い作品となっているので、観られる環境の方はどうぞ劇場へ。