何でもアリの

テレビ番組の感想を綴るブログ

どこよりもリアルな医療ドラマ「コウノドリ」

ドラマにおける定番設定と言えば刑事物と医療物だが、10月スタートのドラマのラインナップを見る限り、その傾向は未だ変わっていない様に思える。そんな中で異彩を放っているのが綾野剛主演「コウノドリ」。このドラマも産婦人科を舞台にしているため医療物に括られるが、「ドクターX」の様なスーパードクターも出てこなければ「無痛~診える眼~」「破裂」(いずれも今期スタート)の様なサスペンス要素も無い、最近では珍しいくらいリアリティを追求した医療ドラマである。主人公が産婦人科医とピアニスト2つの顔を持っているという設定は一応あるものの、あくまで妊婦と主産現場の話がメインという体裁をとっている。最も凄いのはドラマ内に出てくる新生児が皆本物で、それが1人や2人ではないということ。それだけでもこのドラマの本気が伝わってくる。第3話ではマタ旅(妊娠した状態で旅行に出ること)や妊婦の喫煙問題を取り上げた他、四宮(星野源)が患者に厳しくするようになった理由が明らかになったり、母親が妊娠中に風疹に罹ったことで視覚障害を抱えて産まれた少女のエピソードなど、本当にこれを全部1時間でやったのかというくらい盛りだくさんな内容だった。しかし決して散漫になること無く全ての問題をスムーズに繋げてみせたのには感心。4月期のドラマ「Dr.倫太郎」は精神科を舞台にした作品で、こちらも1話につき複数のエピソードを同時進行していたが、精神科に関する情報よりも主人公と他の医者や患者との色恋沙汰の方がメインになっていたきらいがあり、「医療物かと思ったら恋愛物だったでござる」の様相を呈していた。同時期に放送していた「医師たちの恋愛事情」の方がハナから医者の話をする気が無い分親切だったかもしれない。キャストで言えば患者としてゲスト出演する俳優が清水富美加(まれ)、山田真歩、山田望叶花子とアン)、和田正人ごちそうさん)など朝ドラ出演者率が高いのが気になる。こういった傾向は他局のドラマでも度々見られるが、TBSはこういった俳優たちの使い方の上手さにおいて一歩抜きん出ていると思う。

ブラックとバカバカしさ〜平成27年度NHK新人お笑い大賞

NHK新人お笑い大賞を観た。
 
元々は「NHK新人演芸大賞」という名称だったが、去年からタイトルが変更になった。過去の優勝者には爆笑問題などがいて、現存するお笑い賞レースの中では歴史が長い。以下各ネタの感想。

 Aブロック

 スーパーニュウニュウ
コント。娘がボンド塗れの手で父親に目隠しをして離れなくなり、その間に母の家出、父の浮気問題が発覚していく。男女コンビ。オープニングで自作の鎖鎌を持って登場するあたり、アウトローの匂いが感じられる。去年の巨匠もそうだったが、ネタの内容が全くトップバッター向きじゃない。NHKの番組でこのネタをやったこと自体が面白かった。
 
ロビンソンズ
コント。不良息子と国会議員の父。奇しくも親子ネタが続いたが、どんどん取り乱していく父親(スーパーニュウニュウ)と淡々と息子を追い詰めていく父親(ロビンソンズ)という対比があった。元々はザ・ゴールデンゴールデンというトリオで北澤の顔面をイジるネタをやっていたが、コンビになってからは会話の内容で笑わせるネタをするようになった。司会のフットボールアワー後藤の言葉を借りれば高低差あり過ぎで耳キーンレベルのシフトチェンジだが、後にアインシュタイン稲田というモンスターが控えていることを考えれば、それで正解だったかもしれない。
 
アキナ
コント。前2組がブラックな設定のネタだったが、アキナは友達同士でクイズを出し合うという平凡な設定から徐々に黒さが見えてくる構成だったのが他2組との差だったかもしれない。感情が揺れ動く様を丁寧に描くコントはこのコンビの真骨頂。先日のキングオブコントで披露したネタではその丁寧さが裏目に出ていたが、今回はハマった。山名が意味も無くずっとヘルメットを被っているのが好き。
 
漫才。稲田の顔面がとにかくインパクト大だが、ネタの設定はラジオDJというオーソドックスな物で、少々物足りなかった。
 
アキナ勝ち上がり。
 
Bブロック
 
 コント。タクシーの乗客が犯罪者風の素振りを見せる。これだけブラックネタが多いということは、こういうのが東京ライブシーンにおける主流なんだろうなあ。
 
チョコレートプラネット
 コント。鶴の恩返し現代版。長田得意の業者キャラだが、去年この大会とキングオブコントで披露したポテチ開封業者のコントが秀逸過ぎた為、設定の時点ではさすがに既視感が。しかし小道具が出てくるとやっぱり笑ってしまった。絶対このコントでしか使わないだろアレ。
 
和牛
 漫才。彼女の手料理。元料理人でもある理屈屋の水田のキャラが炸裂。男性目線でも女性目線でも楽しめる出色のネタだと思う。勝ち上がってもおかしくなかったが、チョコプラの馬鹿馬鹿しさに軍配が上がった。
 
インディアンス
 漫才。内容としてはお調子者の田渕がダジャレを連発しているだけなのだが、くだらな過ぎて笑ってしまう。でもTHE MANZAI認定漫才師お披露目SPみたいなユルい空気感で見たいタイプ。関西のコンビだが、田渕のキャラがザキヤマ、声が南海キャンディーズ山里に似ているせいか関東っぽさを感じる。
 
チョコレートプラネット勝ち上がり。
 
アキナ VS チョコプラという去年のキングオブコントでも対戦した組み合わせに。
 
アキナ2本目。漫才でよくある「俺○○やるからお前△△やって」というくだりをコント形式で。「漫才でもできるだろ」というツッコミを見越してその実コントでしかできない展開に持ち込んだ。審査員の渡辺正行が言った「本当にお笑いが好きなんだな」というのが伝わってくる。
 
チョコプラ2本目。助けた亀からの恩返しが無いとクレームしに来る客。1本目のコントともリンクしている内容で、設定の時点で客席から笑いが。小道具は無かったが、受け側の松尾の演技にも気を配っている感じが良かった。
 
満票でチョコレートプラネット優勝。去年優勝しててもおかしくなかったので、順当な結果。
 
先日のキングオブコントでは東京のライブシーンで活躍する芸人が悉く評価されなかったが、この大会でもその傾向は変わらず。ブラックネタをする芸人の多さが目に付いたが、その手のネタはかもめんたるが極めた感があり、こう立て続けに見せられるとさすがに食傷気味になる。コロコロチキチキペッパーズにしろチョコプラにしろ、シーンの流行関係無く自分たちが面白いと思うネタをしたコンビが評価されるのがこれからの傾向になってくるのかもしれない。

進化してるね 番組って

有吉弘行のドッ喜利王」が面白かった。
 
通常放送されている「水曜日のダウンタウン」が休みだった代わりに単発番組として放送された番組で、事前に収録した大喜利番組の3ヶ月後にその芸人が回答した内容のことが実際にドッキリとして自分の身に降りかかったらどうなるか?という実験的バラエティ。正直この番組説明だけでは積極的に観ようとは思わなかったかもしれない。今回自分が観ようと思ったのは、この番組のプロデューサーが「水曜日のダウンタウン」と同じ藤井健太郎氏だったからだ。藤井Pの手掛けた番組と言えば「クイズ☆タレント名鑑」「テべ・コンヒーロ」「クイズ☆正解は一年後」などが代表的で、その攻めた姿勢とテレビっ子心をくすぐる番組内容から、一部のディープなテレビウォッチャーから絶大な信頼を置かれているプロデューサーである。
 
そして今回の「ドッ喜利王」も予想を上回る傑作&問題作だった。芸人によるその場の自由な発想が元になっているため、ドッキリの内容も「謎のボタンを押すとハッピーターンが1個天井から落ちてくる」という素朴な物から「採血の時看護師が噛みついて血を吸ってくる」といったクレイジーな物まで幅広かった。しかし3ヶ月も経つと自分の書いた大喜利回答の内容は忘れてしまうらしく、どの芸人も新鮮なリアクションをしていた。ただ記憶の片隅には残っているため、バイきんぐ西村などは「自分が以前夢で見た」「デジャヴだ」と錯覚するという興味深い検証結果も生まれた。
 
また、千鳥・ノブの「心霊写真にタキシードねこが写り込む」という回答に対し、ノブが生み出した架空の生き物「タキシードねこ」を実際に写真に登場させたり、千鳥・大悟の描いた謎の楽器のような物体を実際に作ってしまったりと、芸人の独創的な発想も忠実に再現。その極みだったのが野性爆弾・くっきーが発想した「よだれ玉を着用した運転手」と「ラジオ番組・生稲晃子の野猪(やいの)の血抜き」の実写化。こんな物を実際に再現するのもまずおかしいし、ドッキリ番組でも初めて見る光景だった。
 
その他にも、あまり大喜利のイメージの無かったFUJIWARA原西とバイきんぐ西村がIPPONグランプリなら大健闘してそうな回答を連発してたり、チョコレートプラネット長田のドッキリ「タクシー運転手の声がめちゃめちゃ大きい」がまんまチョコプラのコントみたいだったりと、大喜利パート単体でもドッキリパートとの化学反応的な部分でも楽しめる要素がたくさんあった。
 
大喜利×ドッキリ」という組み合わせでこんなに面白い物を見られるとは思わなかった。ただ残念なのは番組の構造上2回3回と繰り返し収録できる物では無いということ。さらに視聴率は7%と低い水準。こうやって絶賛している自分ですら観る前はそれほど興味を惹かれた訳では無いことを考えれば、この数字はある程度予想できる物だった。しかしおそらく2回目の放送が企画されないであろうことを考えると、この結果は勿体無いと思う。それでも懲りずにこういう進化した番組を作って欲しい。

生まれ変わったコントの大会 キングオブコント2015

今年のキングオブコントの視聴率は15%だったそうな。裏で放送していた日曜最強番組の「鉄腕DASH」「イッテQ」にも勝っているというのだから驚き。
 
ちなみに去年の視聴率は8%程度で、番組史上最低の数字だった。そこから2倍近く視聴率が跳ね上がるとは、ちょっと想像以上だった。しかも番組最高視聴率を更新とは。しかし各ファイナリストが披露したネタの面白さ、完成度の高さで言えば、個人的には圧倒的に去年の方が上だったと思う。
 
なぜ去年最低視聴率を記録してしまったのかと言えば、裏番組の影響に加え、あまりにも「お笑いファン」向けの内容にし過ぎたというのが大きな要因だと思う。去年のファイナリストのメンツが発表された時、「視聴率捨てたのか?」と思うほど無名ぞろいで、驚くと同時に感心したことを覚えている。民放ゴールデンの番組でこんな無名の芸人10組のネタを放送するなんて、キングオブコント男前じゃないか、と。しかもその芸人達の披露したネタというのが、観る側のお笑いリテラシーを試される高度なものばかりで、それを審査するのがまた準決勝敗退した芸人達100人。完全に「芸人の芸人による芸人のための番組」になっていて、これはついていけなかった視聴者も多かったと思う。そして劇場に足を運んだりDVDを買ったりするレベルのお笑いファンはこういう番組が大好物なのだ。
 
しかしお笑いファンがいくら喜んだところで視聴率がついてこなければ番組存続の危機となる。そんな状況の中キングオブコントが今年下した決断というのが「準決勝敗退芸人100人による匿名審査の廃止」と「松本人志、さまぁ~ず、バナナマンという面々の審査員投入」。今までキングオブコントキングオブコントたらしめていたのは芸人100人による審査で、他のお笑い賞レースとの差別化に加え司会のダウンタウンと芸人達のひな壇トーク的やり取りは楽しみのひとつだった。そういった部分が無くなるのは寂しかったが、視聴率を獲るためには止む無し、と自分は受け止めていた。実際今年は高視聴率を獲得したのだから運営側の判断は間違ってなかったと言える。しかしそれとは別に、番組の内容は個人的に満足できるものではなかった。
 
最も気になったのが観客の笑い声の少なさ。前説が無かったとか審査員席が近くて緊張してたとかマイクが拾えてなかったとか色々原因はあるみたいだが、来年は改善して欲しい。去年までは会場に芸人が100人いたので、その笑い声が「ココこのネタの笑いどころですよ」というのを暗に視聴者に伝える役割を果たしていたが、今年はそれが無かったので、ほとんどの芸人がうっすらスベッた感じになってしまって気の毒だった。そんな中で2本とも完璧にウケたコロコロチキチキペッパーズの優勝は至極当然と言える。改善策としては、また芸人100人を会場に呼び戻すのが一番良いと思うのだが。
 
前置きが長くなったがここからは今年のネタについて。去年までの審査傾向は、同年代の芸人が審査していたため「この発想は無かった」「これは自分たちには出来ない」と思わせるネタが有利だったが、今年は百戦錬磨の5人の芸人達が審査員ともあって「細けぇこたぁいいから笑わせろ」という空気を感じた。その結果シンプルで笑いどころが明確なネタが評価され、前フリが長かったり笑いどころの少ないネタは評価されない傾向にあった。
 
藤崎マーケットの1本目のネタは今大会一番好きだった。多くの芸人が過去大会の審査傾向と今大会の審査傾向のギャップに苦しむ中、このネタはどちらの審査傾向でも高得点を狙える唯一のネタだったように思う。全身青の路上パフォーマーのもとに父親がやってくるという設定だが、シュールでいて楽しくて切なくて仄かに不気味という色んな感情を揺さぶられるコントだった。パフォーマーを演じるトキのパントマイムのキレや、BGMにDEENの「ひとりじゃない」をチョイスするセンスなど、セリフ以外の部分でも面白さを形成していた。トップバッターだったのが悔やまれる。2本目はお化け屋敷のゾンビ役の人を生き別れた息子が訪ねてくるという1本目と似た系統のネタ。「1本目と似てる」とわかった時点で期待値が下がってしまった気がする。異色とも言える1本目の後だと普通のコントに見えてしまった。
 
ジャングルポケットはトリオでよくあるツッコミ・大ボケ・小ボケの決まりが無く、役割が流動的なところが強み。1本目は斎藤・太田がボケでおたけがツッコミだったが、2本目は斎藤ツッコミ、太田大ボケ、おたけ小ボケだった。トリオでこれをやってのけるのはなかなか凄い。内容的には1本目の浮気ネタの方がトリオの強みを生かしていた。本筋と関係無い「なんか、腹減らね?(笑)」に笑った。審査員からも割と高評価だったが、斎藤の力み過ぎが発動し、100%良い出来とは言えなかった。まだまだ伸びしろはあると思う。
 
毎年優勝候補と言われながら年々優勝から遠ざかっているさらば青春の光。今年で連続4度目の決勝だったが、ついに最下位に終わってしまった。従来のさらばのコントは東口の言動に振り回される森田の被害者ヅラを楽しむ形式だったが、今回のコントは一度も絵を描いたことのない自称芸術家の森田に東口がツッコむという形式。しかしツカミを失敗してそのまま最後までズルズル行ってしまった。また森田が病的に叫び続けるキャラ設定だったのも会場との温度差に拍車をかけていた。東口のツッコミも森田の熱演に負けてしまっており、役割が逆だったら...と思わず考えてしまった。着眼点は相変わらず面白いし、ゴッホの絵に感化されて絵を書き始めるも結局1枚も書き上げてない森田に対する「ゴッホの絵見ただけの人」という形容の仕方はさすがのセンス。ただ、3年前「イタトン」に衝撃を受けた身からすると色々と物足りなかった。
 
コロコロチキチキペッパーズダークホースながら会場の空気にバッチリハマったコントで優勝を勝ち取った。一度見たら忘れられないナダルの顔と声はこのコンビの大きな武器。だからと言ってそればかりに頼るのでは無く、相方の西野をボケとして、それに対するナダルのリアクションをクローズアップするという形で笑いを獲っていた。自分たちの魅力をよくわかっている印象。1本目はネタ自体のシンプルな面白さに対しナダルの濃いキャラクターが良い塩梅で乗っかっていた。2本目の当てブリネタでは完全にナダルが会場に受け入れられており、ひたすら平和な時間が流れていた。芸歴4年目での優勝は高齢化が進む若手芸人界にとっては驚異的な出来事だろう。番組的には第2のバイきんぐ小峠を探していたはずで、ナダルがそこに納まるのか否か。あとどうやら西野がネタやナダルのキャラクターを考えているらしいが、人畜無害に見えて意外と策士だ。
 
うしろシティさらば青春の光と同じく決勝常連だが、今年はさらばと同じ状態に陥っていた。うしろシティが今まで優勝できなかったのは綺麗にまとまり過ぎて爆発力の無いネタが原因だったと思う。アイドル的人気もあるのでそれに対する芸人審査員の嫉妬も多少あったかもしれない。それを気にしてか今回は二人とも顔がはっきり見えない悪魔と老人に扮し非日常なコントを演じて見せた。しかし審査形態が変わった今回に関しては、従来通りの学生コントなどをやった方が普通に高得点を狙えた気がしてならない。松本も指摘していたが、コントの導入時点では面白くなりそうだったのに(ゲートボールのくだりとか)、結局大して話が広がらずいつの間にか終わっていたという印象。
 
バンビーノは結果的に準優勝だったが、コロチキ同様湿っぽさの無いひたすら楽しいことを追求したスタイルが受け入れられたのかなと。バンビーノって同じリズムネタ仲間の2700と比較されることがあるけど、2700よりもカオスさが薄くてわかりやすいなと思う。1本目は魔法使いと犬のやりとりがひたすら微笑ましいが、去年の「ダンソン」と比べると小さくまとまって見えてしまう。しかし2本目のマッサージネタは「こういうネタを待ってた!」というくらいリズムに特化した完成度の高いコントだった。別番組で見たバージョンが完璧だったため今回は100%の出来では無かったが、去年のリベンジは果たしたと思う。
 
ザ・ギースは自分たちのシュールなコントスタイルそのものをネタにした自虐的かつ実験的なコント。所謂「メタネタ」だが、漫才であれば2010年M-1のジャルジャル、2012年THE MANZAIアルコ&ピースなどが漫才自体をネタにしたメタネタを披露して賛否両論を巻き起こしたが、コント自体をネタにしたコントというのはこういう賞レースでは初めて見た。ザ・ギースが今回披露したのは、前半にシュールを通り越してイカレたコントを見せておいて、リフォーム番組「劇的ビフォーアフター」のフォーマットに則って見やすく改善されたコントを見せるというもの。アイディアは凄いし、面白くもあったのだが、ザ・ギースが普段どんなネタをやっているかを見る側が知っているという前提のコントで、準決勝で爆発している画は容易に浮かぶ。しかし視聴者や会場にいる観客及び審査員には必ずしもその共通認識は無いため、当然狙った通りの笑いにはならない。それにしても前半のカオス感は半端無かった。
 
ロッチは1本目の試着室ネタで爆発。「くだらねぇ」という形容がピッタリの全く中身の無いコントだった。中岡のポーズや声のトーンがツボにハマってしまうと永遠と笑ってしまうある意味最強のネタ。ただこういうネタはジャルジャルがよくやっているイメージで、彼らが決勝に上がっていたらどうなっていたんだろうという感想がよぎった。よっぽどのことが無い限りロッチ優勝だろうと思っていたが、2本目見事に失速。ある意味こちらもロッチらしいユルいネタだったが、1本目との幅を見せたかったのかコカドメインで中岡を全く生かさなかったのが一番の敗因。1本目からの良い流れを自ら断ち切ってしまった。
 
アキナは去年同様人間の黒い部分を引き出すことに重きを置いたコントだったが、「これ鳥を飼ってる人が見たらどう思うんだろう」という思いがネタ中どうしても頭をよぎってしまう。また、去年も今年もフリにたっぷり時間を割いていたが、去年はフリの時点で笑いが起きていたのに対し、今年は前半ほぼ無風だったのは勿体無かった。あれだけ長いフリならば後半によっぽど意外な展開が無ければ割に合わない。世の人がうっすら感じているが大きな声で言えない「鳥」に対する違和感をネタにした勇気は買いたい。
 
巨匠は去年の「パチンコ玉を新聞紙で包んでおじさんを作る」といい、今年の「回転寿司屋でコンクリート固めにされた罪人」といい設定のオリジナリティがエグい。そして放送コードギリギリ。しかし設定のインパクトがピークになっている感は否めない。相方が受けのリアクションのみという点も減点対象だったかもしれない。個人的には暗い店内での「タコだと思ったらイカだった」というセリフのディテールなどは良かった。松本人志の「昔の僕だったら好きだった」というコメントには色々考えさせられた芸人も多いと思う。
 
今回からの審査員制度によって審査基準や求められる笑いは去年とは全く別物になった。コロコロチキチキペッパーズという新鋭の優勝がそれを物語っている。従来のキングオブコントを好んでいた視聴者からは戸惑いや失望の意見も見られる。しかし今回からキングオブコントが生まれ変わり、より大衆に向けた大会になっていくであろうことは今回の高視聴率で決定的になった。大会をテレビで放送する以上はそうなって然るべきだと思う。とりあえず今は来年大会を楽しみに待つ。

配役の妙「偽装の夫婦」

「偽装の夫婦」第1話を観た。
 
主人公の嘉門ヒロ(天海祐希)は人嫌いの図書館司書。ある日ヒロはかつて唯一愛した元カレと25年ぶりに再会するが、彼が実はゲイだったことが発覚。しかも自分の母親がガンに侵され3か月の命なので、母を安心させるため偽装結婚をしてくれとヒロに頼んできた。冗談じゃないと思うヒロだったが、自宅アパートにある大量の本の重みで床を壊してしまい、住居を無くした上300万の修理費も請求されてしまったため、結局元カレに頼ることになる。
 
天海が演じるヒロというキャラクターは、容姿の美しさに加え何をやらせても上手く出来てしまう故に周りの人間に劣等感を抱かせてしまい、その結果本気を出さず地味な生活をするようになる。天海の「出来る女」イメージを逆手に取ったような役だ。シンプルなヘアメイクと服装に冷めた表情は以前天海が主演した「女王の教室」を彷彿とさせる。
 
その他の登場人物もキャスティングが絶妙で、ゲイの元カレ役の沢村一樹を始めとして、魔女のような喋り方をするヒロの叔母にキムラ緑子、売れないマジシャンのいとこに佐藤二朗、ぶりっ子風のもう一人のいとこに酒井真紀とコメディ巧者の面々が並ぶ。また、元カレが好意を寄せる宅配の兄ちゃん役が工藤阿須加というのもリアル。しかし第1話で一番強い印象を残したのは謎のシングルマザーを演じた内田有紀だったかもしれない。ラストでヒロに対し、まるで宗教の勧誘でもするかのような口調とイッちゃってる目で「あなたのことが好きなんです」と告白するシーンは、それまで「内田有紀最近この手の役(シングルマザー)多いな」としか思ってなかっただけに面喰らった。
 
第1話を観た時点では次週も観たくなる面白さだったが、このドラマの一番のネックは脚本が遊川和彦ということ。遊川と言えば「家政婦のミタ」を大ヒットさせた直後に朝ドラ「純と愛」で総スカンを喰らったことでお馴染みで、好き嫌いの分かれる作風と言える。しかし、Yahooニュースのインタビューで遊川はこう発言している。

これまで僕が作り続けてきた作品は、最初にバシバシと殴って不愉快な思いをさせた上で、最後に大丈夫かと優しくする、といったドラマでした。でももうすぐ還暦になるので、そういったものを全部捨てようという決心をしました。もう殴るのをやめます(笑)。これから10年は、楽しく、そして観終わった後で考えさせられるようなドラマを書きたい。少なくとも、本人の意識としてはそういうドラマを作りたいなという気持ちになっているんです。
今回は最終回を見ても不愉快な思いはしませんから。『○○妻』の最終回では、何てことをしやがるんだと言われましたけどね、主人公を死なせたんで(笑)。それでひるんだわけでもないですが、やはりエンターテインメントなので、もっとたくさんの人に喜んでもらいたいなと思ったんです。だからここで変わるぞ、と宣言をしているわけです。人に変わってほしいと言っているんだから、自分だって変わらないといけないと思う。そのつもりでやっています。
 この発言通りであれば、「偽装の夫婦」は今後も第1話の面白さをキープしたまま進んでいく可能性はある。少なくとも配役はバッチリなので、キャラクターを楽しむドラマになるかも。

玉木宏と子役の演技が光った「あさが来た」

連続テレビ小説「あさが来た」がスタートした。
主人公のモデルは日本初の女子大学の設立や炭鉱業などに尽力した実業家であり教育者の広岡浅子。新撰組や「花子とアン」の主人公・村岡花子とも交流があったそう。これだけの経歴のある人物なら朝ドラの長丁場でも間延びせず楽しめそうで、そこは期待できる。
このドラマが今までの朝ドラと最も違うのは物語のスタートが江戸時代である点である。2010年代の朝ドラは現代物が減った代わりに明治から昭和にかけての時代を扱うことが多くなっているのだが、それ以前の時代を舞台にした作品は意外にも今回が初めて。

第1回を観て思ったのは「超・王道の朝ドラ」ということだ。名家のお嬢様でありながらお転婆な主人公、厳格な父親、出来の良い姉、優しい祖父、変わり者の相手役。どれも過去に見たことがあるようなお馴染みの設定だ。これだけ王道だと「ベタ」「マンネリ」と揶揄されてしまいかねないが、「時代設定が幕末」ということ自体が大きな違和感となっているため、バランスを取る意味でもキャラクター設定は王道で寧ろ正解。まあ今回の場合、前作がトンデモ朝ドラだったので何が来ても許容される体制は整っていたのも確か。

第1週を通して見て最も印象に残ったのは主人公・あさの許嫁「新次郎」を演じる玉木宏とあさの姉「はつ」の子供時代を演じた守殿愛生である。
第1話、あさが新次郎と初対面する場面で多くの視聴者はある違和感を感じたと思う。公式によると2人が出会った時点の年齢は、あさ11歳に対して新次郎は22歳の設定とのこと。これでも十分な年の差だが、演じる鈴木梨央玉木宏の実年齢はそれぞれ10歳と35歳なのだ。下手すれば親子ほどの年の差で、映像的にはとても夫婦には見えない。新次郎にも子役を使うべきだったのでは?という意見も多く見られたし、自分も最初はそう感じた。しかし物語が進んでいくうちに、新次郎というキャラクターの柔和ながら掴みどころの無い遊び人の雰囲気は玉木宏でしか出せないと思うようになった。玉木宏と言えば2枚目ながら「災難に見舞われる男」を演じることが多いイメージがあるのだが、今作では逆に周りの人間を振り回す人物を色気たっぷりに演じており、既に世の女性視聴者を虜にしている。玉木の出世作「のだめカンタービレ」の千秋先輩以来の当たり役になるのではないだろうか。

もう一人、守殿愛生演じるはつというキャラクターは、お転婆なあさと比べておしとやかで出来が良いという設定だが、物語の上ではトラブルメーカーのあさの影に隠れる地味な存在だった。しかし第4話は、はつがもう一人の主人公であることを示唆するような回だった。この回ではつは許嫁である惣兵衛(柄本佑)と初対面するが、終始笑顔を見せない惣兵衛に冷たい印象を受ける。その夜、自分の将来を案じたはつは妹の前で初めて涙を見せる。この回を観て、視聴者の多くはあさよりはつに感情移入したことと思う。遊び人だが優しそうな新次郎の家に嫁ぐことが決まっているあさに対し、冷淡な惣兵衛と高圧的な姑のいる家に嫁ぐはつ。どちらが困難を強いられるかは火を見るより明らかだ。しかも第6話では母親の口から当初ははつが新次郎、あさが惣兵衛に嫁ぐ予定だったことも明かされ、ますますはつが気の毒に思えてくる。長女であるが故に早くから結婚を意識せざるを得ず、両親の言うとおり花嫁修業に勤しんできたものの、いざ相手を前にして不安が一気に押し寄せてしまうはつの心情を、守殿愛生という若干12歳の女優が実に繊細に演じており、妹と抱き合って泣く場面はネット上で早くも名シーンとの呼び声高い。それまであさのお転婆描写が多かった分、はつへの印象がグッと強くなった。

第1週を見た限り、ドラマとしてよく出来ているし朝ドラのツボも外していない、キャラクターも魅力的で役者の好演が光る。次週以降も楽しみな作品だ。

笑けずり最終回を見た

笑けずりとは、NHK-BSプレミアムで放送された全7回のバラエティ番組。内容は、オーディションで選ばれた無名のお笑いコンビ9組が本栖湖近くのペンションに集められ共同生活を送るというもの。勿論それだけで終わりではなく、売れてる芸人コンビ(中川家笑い飯、千鳥、バイきんぐ、サンドウィッチマン)を毎回講師に迎え、彼らのお笑い指導を受けつつ、出される課題に沿った新作漫才を作り、その出来如何によって1組ずつけずられていく、というさながら電波少年かサバイバーかガチンコ漫才道かという、2000年前後臭のする企画である。共同生活+スタジオでそれを観て感想を言い合う芸能人達という構図から「テラスハウス」も意識していると思われる。この生き残り生活で最終3組まで絞られ、最終回では生放送で3組が新作漫才を披露、視聴者投票により笑けずりチャンピオンを決める。
 
この番組が他のお笑い番組と違うところは、講師たちのお笑い授業により視聴者もお笑いについて勉強でき、若手芸人たちの成長過程をリアルに感じることができる点である。「爆笑オンエアバトル」などのネタ番組や「はねトび」系列のコント番組が悉く終了し、こういった「若手芸人見守り型」バラエティは壊滅的な状態。そんな中でこの「笑けずり」という番組は久々に観る側も思わず応援したい気にさせられる良質なお笑い番組だった。
 
最終3組まで残ったのはぺこぱ、ザ・パーフェクト、Aマッソ。最終回ではこの3組が「夢」をテーマに新作漫才を披露し視聴者投票、最下位の1組が削られ残り2組でテーマフリーの漫才を披露。得票数の多い方が笑けずりチャンピオンになるという形式だった。
 

各コンビの印象と最終回のネタ感想

 ぺこぱ
ボケの松陰寺のヴィジュアル系ヘアメイク+着物+ローラーシューズ+キレのある動き+「キザーン!」という決め台詞のコンボは相当インパクトがある。着物を着て漫才をする芸人は東京ダイナマイト以来じゃないだろうか。合宿中のネタ見せでは相方であるシュウペイのツッコミの弱さが再三指摘されてきたが、最終回ではシュウペイに松陰寺のモノマネをさせる他無言ツッコミで緩急をつけるなどの改善が見られた。バイきんぐ回の「ベタだけどベタに見えない漫才コント」という課題で1位を獲ったが、最終回でも桃太郎というベタな設定に松陰寺のキャラが乗っかる漫才コントを披露。「人類のほとんどが松陰寺」「哺乳類の内臓に寄生する微生物・キザ」「犬、猿、雉が同時に死ぬ」などのSF要素を盛り込んでオリジナリティは抜群だったが、松陰寺が緊張から噛みがちだったり変な間が空いたりしてしまったのが残念。ただスタジオにいた足立梨花とのやり取りは面白かった。松陰寺はメンバー中最年長なこともあってか色々引き出しの多さを感じさせるので、おもしろ荘あたりに出てブレイクして欲しいところ。
 
Aマッソ
ズバ抜けた発想力・独創性を持つ大阪出身の女性コンビ。笑い飯を敬愛しており、その影響が随所に感じられる。女性版笑い飯と言えばDr.ハインリッヒが思い浮かぶが、あちらより更にアクの強いネタをする。ベタを好まず、よくある言い回しを避け、しゃべり方も女性らしさを完全に排除している。合宿中は3回1位を獲得するなどエリート的なポジションだったが、千鳥から「1か所聴き逃したらわからなくなる」「ネタを観るのに集中力が要る」と指摘された通り、世界観を作り過ぎて観客を置いてきぼりにするきらいがある。最終回のネタもその傾向が見られたが、
ホッピング欲しい」
「ボヨヨンボヨヨンって何が面白いねん!」
「...かつみさゆりに聞けや!!」
「アホやこいつ、イルカのスタンプやのに赤のインク使うとんねん」
「大丈夫です、芸大通ってますんで」
「逆だけがアートちゃうぞ。しょうもないセンス出してくんな」
などの毒舌パートは面白かった。やはり笑いには共感性が必要で、発想を飛ばし過ぎると良くない。シュールな女性コンビというのはなかなか脚光を浴びにくく(少年少女が良い処まで行けそうだったけど結局活動休止してしまった)才能に反比例して苦労しそうな予感もするが、いつか陽の目を浴びてほしい。
 
ザ・パーフェクト
 既に漫才のフォーマットが完成しており、ハードパンチャー妹尾(この芸名はチョコレートプラネット松尾の旧芸名
松尾アンダーグラウンド」並みに違和感のあるネーミングである)の突飛なボケをツッコミのピンボケたろうが優しくフォローするというスタイル。観客に寄り添うタイプのツッコミなので、そりゃあ初見の人にも支持されやすいだろう。最終回での後ろを向いた状態の妹尾の行動を実況解説する部分などは、このコンビのスタイルをよく活かしていた。最終決戦で1位となり初代笑けずりチャンピオンに。ピンボケたろうはいじられキャラとして先輩に好かれそう。ツッコミがたくさん喋るタイプの漫才師は三四郎、ウエストランドなどがいるが、そこに食い込めるかどうかが今後の分かれ道になりそう。
 
第2シリーズがあるかどうかはわからないが、こういう番組をやる意義は大いにある。あと地上波での再放送を希望する。