何でもアリの

テレビ番組の感想を綴るブログ

M-1グランプリ2019

2019年のM-1が過去最高レベルの面白さだったので久々にブログ更新。「岡村隆史オールナイトニッポン」で披露されたNON STYLE石田の講評が的確過ぎたのでそこからも引用しながら順位の高いほうから感想を。

 

ミルクボーイ

初見。ネタの構造は「オカンが好きな食べ物を当てる」というシンプルな物ながら、昭和感溢れる角刈りの内海のルックスや語り口と題材のポップさとのギャップが笑いを生む。色々試行錯誤した末に辿り着いたフォーマットかと思いきや、デビュー前の時点でこの形式が出来上がっていたらしい(Wikipedia参照)。2011年にこの形式の漫才を披露している動画を見たが、その時の題材は「元ヤン」。当時より技術が向上したのも勿論あると思うが、題材を「コーンフレーク」「もなか」という通常漫才のメインには使わない物を選んだのも勝因だったかもしれない。3位のぺこぱと共に「誰も傷つけない笑い」と評する意見も見かけるが、よくよく彼らの漫才を聞けばコーンフレーク業界やもなか業界をまあまあdisっている。それでもほっこり笑えるように見せているのが本来の彼らの凄いところだと思う。「お菓子の組事務所」とか一生かかっても思いつかないそんな面白いフレーズ」。歴代最高得点を叩き出した場面では笑い飯が出てた頃のM-1を思い出して懐かしくなった。

 

かまいたち 

漫才もコントもトークも高いレベルでこなすある意味現役最強コンビ。去年のネタも十分最終3組に残れるレベルだったと思う。ミルクボーイやその他複数のコンビが漫画的な笑いだったのに対して、かまいたちは「山内」「濱家」という人間の個を打ち出す漫才だったように思う。「この人達普段からこんな会話してるんだろうな」と思わせるリアルさがあった。変なところで息継ぎするとか、絶妙に意味のわからない構造の文章などオリジナリティ溢れるボケが満載。あと今年はツッコミがメインで笑いを取るタイプのコンビが多かったのに対して、このコンビはあくまでもボケの山内が主導権を握るタイプだった。近年の漫才の傾向に寄らないストロングスタイルを貫き通したところはもっと評価されていい。以下ノンスタ石田の指摘でなるほどと思った部分。

基本的に漫才師で多いのは、言い間違えをすることをボケにする事が多い。(略)そういうネタを作る人が多い中、言い間違えをスタートにして、そこで、しゃべくりがスタートする。そこでモメ始めるというのが、実はこれってコント的な始まり方なんですよね。

 

ぺこぱ

このコンビを初めて見たのが2015年にNHK-BSで放送された「笑けずり」。松陰寺がヴィジュアル系メイクに着物、ローラーシューズというとんでもない出で立ちだったが、ワードセンスやナルシストキャラなのに漂う哀愁などは当時から光る物があった。

http://starfes.hatenablog.com/entry/2015/09/29/203158

一方でシュウペイのツッコミが普通過ぎたため、M-1ファイナリストになるのは正直厳しいと思っていたが、2018年のM-1予選ではボケとツッコミを入れ替え、今の「ノリつっこまない」スタイルを確立していたので驚いた。「このスタイルは今の時代に合ってるから絶対世に出るべき!」と思っていたところ、2019年元旦のおもしろ荘でこの漫才を披露し優勝。しかし何故かブレイクには至らず、それどころか所属していたオスカーのお笑い部が消滅し強制的にフリーになるというアクシデントも(現在はサンミュージックに所属)。そんなこんなでこのまま消えてしまうかと思った矢先の今回の漫才は素晴らしい出来だった。ただでさえ「ツッコミそうでツッコまない」という斬新なスタイルなのに、「正面が変わったのか...?」などに代表されるメタ要素、口笛&キレのある動き&ファ行を使いたがるなどの松陰寺の盛りに盛られたキャラクター、「キャラ芸人になるしか無かったんだ!」という素の叫びなど見る側を飽きさせない工夫がふんだんに盛り込まれたテーマパークのような漫才。「誰も傷つけない笑い」と言われているが、その実態は漫才に対する批評、少子高齢化などの社会問題に対する皮肉に満ちており、一歩間違えればウーマンラッシュアワーの漫才のように賛否分かれかねないところを松陰寺のキャラクターで軽やかに仕上げている。ウーマンラッシュアワーと言えばノンスタ石田のこの講評。

このコンビの凄いのは、松陰寺くんのツッコまないというね、ツッコミ切らないというスタイルを支えてるシュウペイの...だからあんな長いツッコミ待ってらんないんすよ本来は。...を、耐えるためにあんなアホなキャラ設定してるじゃないですか。(略)あれ出来んのはたぶん今漫才師の中でシュウペイとパラダイス(ウーマンラッシュアワー)だけやと思う(笑)

 

和牛

話術、発想、構成、演技力、どれを取っても一級品で、非の打ち所がないとはこのコンビのこと。一つ足りない所を敢えて挙げるとするならば「アホらしさ」になるのかもしれない。自分はお笑いを見ていて「ずっと何やってんだコイツらw」となる瞬間が好きなのだけど、和牛に対してはそういう感情より「凄いなー」が勝ってしまう。達者であるが故の悲劇。でも今回の和牛の漫才はかなり好き。「電気なんか通ったらすぐ人は住みよるからねー!」という川西狂気の一言、2人揃って金縛りに遭う場面は繰り返し見たくなる。ここはもう本当に早い段階で優勝するべきだった。

なんとなくM-1グランプリって、1塁ベースにヘッドスライディングして欲しいんですよね。(略)和牛もめちゃめちゃ頑張ってるから、ホンマはあいつらの中でヘッドスライディングしてるんですけど、あのスタイルやから、見えないんですよ。

 

見取り図

かまいたちに近い、キャラを作らず本人の素で勝負するタイプの漫才。お互いを褒め合う流れから一転、お互いの見た目を何かに例える流れに。「煽り運転の申し子」「激弱のバチェラー」など強めのワードがいくつも飛び出したが、メインの笑いどころが容姿弄りというのがこのご時世評価が分かれるところ。アインシュタイン稲田くらいのインパクトであれば弄らないほうが寧ろ不自然になるのだが、このコンビの場合そこまで見た目にインパクトがあるわけでもないので、容姿弄りをする必然性が感じられないのが違和感の正体な気がする。せっかくワードセンスはあるのだから、別の方向性の漫才を見てみたい。

 

からし蓮根

まだ若手ながら数年前から決勝を期待されていたコンビ。ネタの構造自体はオーソドックスな漫才コントながら、伊織の187cmの巨体から繰り出されるぶっ飛んだボケに対する小柄な杉本の熊本弁ツッコミが良いアクセントになっている。よく聞くとツッコミのワードが結構乱暴なのだが、杉本のベビーフェイスと熊本弁独特のイントネーションで緩和されている。そういう意味でカミナリに通ずる物がある。正直今年は周りのキャラが濃過ぎて正統派に見え過ぎてしまった感じがあったのと、審査コメントで上沼恵えみちゃんが突如和牛にキレ出すというハプニングがあったため印象が薄くなってしまったのが気の毒w

 

オズワルド

初見。スタイリッシュな見た目、ローテンション、諭す感じのツッコミなど、ザ・東京スタイルといった出で立ちのコンビ。こういうタイプのコンビが優勝した前例は無く、それだけでもだいぶ不利なのに、歴代最高得点を叩き出したミルクボーイの後の出番とは神様も意地が悪い。それでも7位という順位は大健闘だし面白かったのだけど、またしても石田先生が違和感を言葉にしてくれた。

ミルクボーイほど凄い描写が明確やったコンビの後に見ると、描写が見えにくかった。一体今どういう状況を見せようとしているのかが見えにくかった。

 

すゑひろがりず

袴姿に鼓と扇子、狂言風の言い回しなど飛び道具要素満載のコンビがM-1決勝に残るとは。よく引き合いに出されるのが2002年ファイナリストのテツandトモだが、あちらが漫才というより歌ネタであったのに比べれば、すゑひろがりずのネタは寧ろ超オーソドックスな漫才だった。そして登場シーンがカッコよすぎた。ここはコントも出来るし、今回ファイナリストになっただけで勝ちだったと思う。

 

インディアンス

ここは田渕の愛嬌が全てみたいなコンビなので、散々ワードセンスや発想が光るコンビが続いた後では分が悪かった。なんか本調子じゃないなと思ったら田渕が一部ネタを飛ばしていたらしい。一見豪快なテキトーキャラに見える人物が一番M-1の舞台に飲まれていたというのがちょっと衝撃。あと田渕は普段からネタ通りのお調子者キャラらしいので、中川家礼二の「素の部分の面白さが見えない」というコメントはシビアだなぁと。

 

ニューヨーク

今回決勝に上がったと聞いてぺこぱ、すゑひろがりずと同じくらいビックリしたコンビ。というのもニューヨークというコンビは登場して間もなく「若手のホープ」として期待され、ツッコミの屋敷に至ってはあの南海キャンディーズ山ちゃんが「潰したい若手ランキング(2016年当時)」1位に名前を挙げるほどの逸材なのだ。しかし待てど暮らせどニューヨークはなかなかブレイクしなかった。ついには彼らより後輩の「第7世代」という言葉も出来てしまい、さすがに旬が過ぎたかと思った矢先の決勝進出である。個人的には一番思い入れのあったコンビなので嬉しかった。最下位には沈んでしまったが、今回のネタを解剖すればするほど、彼らは最良のネタ選択をしたと言わざるを得ない。ニューヨークのネタの真髄は「人間の嫌らしさ」にある。ただいつも通りネタをやったのでは初見の視聴者には毒が強い。もしいつも通り偏見毒舌まみれのネタをやったとしても、その辺りを上手くオブラートに包んでいたミルクボーイと比べられてしまってただろう。そこで彼らが選んだのが歌ネタだった。最初は「え?このネタ?」という感じだったが、妙に頭に残るメロディーラインはキャッチーで子供も真似しやすいし、この歌の絶妙なダサさその物が皮肉になっており、ニューヨークらしさが現れている。公式チャンネルに上がっている動画と見比べると、M-1用にかなり改良を重ねたことが窺い知れる。

https://youtu.be/Bo_0b2Nik7c

あとはやはり松本人志のコメントを受けての振る舞いがテレビ的に大正解だった。これを口実に心おきなくブチ切れ漫才をして欲しい。アメトーークとか水曜日のダウンタウンのプレゼンターで良い仕事をする画しか浮かばないので今度こそ売れてくれ。